ラジオをお聞きの皆さん、こんにちは。
『文学の散策路』の時間です。
この番組は、毎回、お勧めの一冊、その中の数行にスポットを当て、ゲストの皆さんにご意見、感想等、自由に語り合っていただく番組です。
まずは、ゲストの方々からご紹介いたしましょう。
私のお隣から、仁木涼子さん。図書館司書のお仕事をしていらっしゃいます。今日はよろしくお願いします。
涼子 「こちらこそ、よろしくお願いします」
ラジオをお聞きの皆さん、こんにちは。
『文学の散策路』の時間です。
この番組は、毎回、お勧めの一冊、その中の数行にスポットを当て、ゲストの皆さんにご意見、感想等、自由に語り合っていただく番組です。
まずは、ゲストの方々からご紹介いたしましょう。
私のお隣から、仁木涼子さん。図書館司書のお仕事をしていらっしゃいます。今日はよろしくお願いします。
涼子 「こちらこそ、よろしくお願いします」
作文コンクールの表彰式を無事に終え、僕は再び新幹線のホームに立った。
土曜日の午後ということもあり、ホームは老若男女、いろいろな世代の人たちで溢れかえっていた。
しかしその大勢の人たちも、『これから旅に出る人』と『これから家路につく人』の、大きく2つに分けられる。
洋服の皺の具合、お土産の紙袋、ベンチに座り、投げ出した足に張られた絆創膏、バックから覗くミッキーマウスの耳...。
うきうきと楽しげな会話。その一方で、欠伸。
そんな、さまざまな人たちの吐き出す、さまざまな空気の流れを一旦止めるように、新幹線の発車のベルが鳴り響いた。
~大きなお世話のご注意~
めずらしく、東京日記を2話一度に更新しました。その23~ズボンの折り目~から先に読んでいただくとうれしいです。
さあさ、ようこそ!『東京日記その24』の本文は以下からです。
恐る恐る振り返ると、母は笑ってるような、泣いているような複雑な表情で、印鑑ケースを手にしていた。
な~んだ、印鑑か。なにさぁ、「あっ!」なんて驚かさないでよ...。
ん?
「三船様っ、心配しておりました。ご印鑑は...」
後光の人は、フロントから僕らのところまで、前のめりになりながら駆け寄って来てくれた。
わずか3メートルあまりの短いその距離を、小走りにやって来る姿に、後光の人が母との電話を切った後、かなり気を揉んでいてくれていたであろうことが伝わってきた。
無理もない。
『当ホテルのすぐ向かい。徒歩4分!』
この言葉に嘘はなかった。実際には言ってないけど。
横断歩道の前に立ち、じっと赤信号を見つめる僕と母。
(早く、早く)と念じたからといって、信号が僕らの気持ちを汲み取り、
「しょーがねえなぁー、んじゃ、30秒おまけしてやっか」
などと言い、早く青にしてくれるはずもない。
しかし他に心の置き所も無く、僕は赤信号を見続けていた。
これって...エレベーターに乗り、目的の階まで一つ、また一つと上っていくライトを見つめる時と似てる。
イライラしている僕を、(まっ、そう焦らないでさ~)と諭し、事務的&機械的な仕事ぶりの信号機とエレベーター...っていうか、そもそも機械だよね。
母と僕は、その薄暗い路地を覗き込んだ。
やはり一人また一人と、路地からはスーツや制服を着た人たちが出て来る。
「ここ行ってみようよ!」僕の提案に、
「まっ、どうせ迷子だしね~」と、母は頷いた。
その手には、印鑑屋さんからプレゼントされた立派なケースがしっかりと握られていた。
僕は、まるで御守りのように印鑑を握っている母を見て、『迷い大人でしょっ!』と、ツッコミそうになる自分を抑えた。
「ありがとうございました~」
印鑑屋のおじさんはドアを開け、僕たちを見送ってくれた。
母と僕は振り返り、おじさんに頭を下げた。
おじさんは胸のあたりで手を合わせ、母に丁寧なおじぎをした後、僕のほうに向き直り大きく手を振ってくれた。
僕は手を振り返しながら、いい人だったな~と、じんわりと温かい気持ちが広がっていくのを感じていた。
足の疲れが温泉に浸かり、小指の先まで癒されていくような感じ...。
『大人げナイフ』を持った母と、僕はきっちり1分交代で椅子に座っていた。
そして立っている間は他にすることもないので、店内の商品を見て過ごした。
...とは言っても印鑑屋さんなので、置いてあるものは印鑑と、朱肉や印鑑ケースなどといった印鑑に関わるグッズのみだ。
あれこれと見回すうちに印鑑タワーに納まっている印鑑は、比較的値段が安いものだということに気がついた。
『すぐにお作りしますよ』の秘密は、パソコンで入力して出てきた印鑑を、店のおじさんが仕上げることにあった。
おじさんに注文した僕らにどっと押し寄せたもの。
それは、安堵感&(おお!ホタテおじさんなら十分にウケそうなダジャレ)足の疲れ。
母の視線が店の中の椅子へと流れた。
そしてほぼ同時に僕の視線も、その椅子へと・・・。
僕と母は、椅子取りゲーム決勝戦のような勢いで、たった一つの椅子を目指した。
床屋のおじさんに言われた通り、角を曲がると...。
明るい、そう!両脇の店に比べると、ひときわ明るい店が目に飛び込んできた。
もちろん、その明るさの違いは、実際の照明の明るさの違いだけではない。
ガラス張りのドアからは、1つ...2つ...3つ...4つ...。4台も、あの『印鑑タワー』とでも呼ぶべき、(六角形、もしくは八角形だろうか)印鑑がびっしりと詰まったケースが見えた。
「あった~!」僕と母は、同時に叫び、顔を見合わせ頷きあった。
そして僕らは、その印鑑タワーを目指して駆け出した。