横断歩道の前に立ち、じっと赤信号を見つめる僕と母。
(早く、早く)と念じたからといって、信号が僕らの気持ちを汲み取り、
「しょーがねえなぁー、んじゃ、30秒おまけしてやっか」
などと言い、早く青にしてくれるはずもない。
しかし他に心の置き所も無く、僕は赤信号を見続けていた。
これって...エレベーターに乗り、目的の階まで一つ、また一つと上っていくライトを見つめる時と似てる。
イライラしている僕を、(まっ、そう焦らないでさ~)と諭し、事務的&機械的な仕事ぶりの信号機とエレベーター...っていうか、そもそも機械だよね。
僕の思考回路は、あの日のエレベーターの中にリンクした。
待ち合わせの時間に遅れそうで、焦って乗ったエレベータ。乗っているのは僕だけだ。
行き先の6階のボタンを押す。
1階、2階、3階...点滅しながら順調に上っていく、オレンジ色のライト。
いい調子だ!
どうかこのまま誰も乗ってきませんように。途中の階で停まりませんように。
念じた直後、「5階です」の機械的なわりには、妙に明るい声。
「ちっ!」停まっちゃったよ。
扉が開くと、顔も体もふっくらとした、優しそうなおばさんが一人立っていた。
おばさんは「ちっ!」の表情の僕にたじろいだのか、「あら、ごめんなさいね」と申し訳なさそうに言いながら乗り込み、僕に軽く会釈をした。
遠慮したように肩をすぼめたおばさんの背中を見ながら、はっと、身勝手な自分に気づく僕。
「こちらこそ、ごめんなさい!」
「誰に謝ってんの?信号変わったよ」と母は僕の顔を覗き込んだ。
おお、そうだった!リンクしている場合じゃなかった。
小走りで横断歩道を渡り、ホテルの玄関へ滑り込むように入った。
そこには、再び行く手を阻むかのようにのんびりと動くエスカレーターが待っていた。
今度はお前か...。
(ああ、やっぱり駆け上がりたい!)その衝動を必死で堪え、後ろの母を振り返ると、母は僕を見て大きく頷いた。
それは...塁に出た選手に送る、監督の熱い視線そのものだった。
(走れ!ですね)(行こう!!)
僕は迷うことなく、エスカレーターを駆け上った。
そして、グリコの人のポーズ。
ああ~快感!!
幼稚園以来の夢が叶った瞬間だった。
それから、ゲッ!一足遅れて監督、いや母も。
母の手の中、キラリと『大人げナイフ』が光っていた。
弾む息を整えながら、フロントに近づく。
あっ!いらっしゃった!
後光の人は、宿泊客に笑顔でカードキーを手渡しているところだった。
僕の熱い視線に気づいたかように顔を上げると、ゆっくりと僕らを見た。
(一時はあなたを疑ってしまいました。おかげさまで印鑑を手に入れ...)
詫びようと息を吸い込んだその時、後光の人は隣に立っている人と顔を見合わせ頷き、フロントから飛び出して僕らに駆け寄って来たのだった。
つづく
次回予告
後光の人との再会を喜ぶ僕ら。
ようやく落ち着いたホテルの部屋で、母はまた...。
~お知らせ~
やっぱり、最終話じゃありませんでした。計画性がなくってすみません。
でも、今月中にはちゃんと終わらせます。ラストスパート、頑張ります!
最後までお付き合いください。よろしくお願いします。









