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東京日記その22~駆け上がる快感~

三船恭太郎
(2009年5月21日 18:07)

横断歩道の前に立ち、じっと赤信号を見つめる僕と母。

 

(早く、早く)と念じたからといって、信号が僕らの気持ちを汲み取り、

「しょーがねえなぁー、んじゃ、30秒おまけしてやっか」

などと言い、早く青にしてくれるはずもない。

 

しかし他に心の置き所も無く、僕は赤信号を見続けていた。

これって...エレベーターに乗り、目的の階まで一つ、また一つと上っていくライトを見つめる時と似てる。

 イライラしている僕を、(まっ、そう焦らないでさ~)と諭し、事務的&機械的な仕事ぶりの信号機とエレベーター...っていうか、そもそも機械だよね。

  僕の思考回路は、あの日のエレベーターの中にリンクした。

 

待ち合わせの時間に遅れそうで、焦って乗ったエレベータ。乗っているのは僕だけだ。

行き先の6階のボタンを押す。

1階、2階、3階...点滅しながら順調に上っていく、オレンジ色のライト。

いい調子だ!

どうかこのまま誰も乗ってきませんように。途中の階で停まりませんように。

念じた直後、「5階です」の機械的なわりには、妙に明るい声。

「ちっ!」停まっちゃったよ。

扉が開くと、顔も体もふっくらとした、優しそうなおばさんが一人立っていた。

おばさんは「ちっ!」の表情の僕にたじろいだのか、「あら、ごめんなさいね」と申し訳なさそうに言いながら乗り込み、僕に軽く会釈をした。

遠慮したように肩をすぼめたおばさんの背中を見ながら、はっと、身勝手な自分に気づく僕。

「こちらこそ、ごめんなさい!」

 

「誰に謝ってんの?信号変わったよ」と母は僕の顔を覗き込んだ。

おお、そうだった!リンクしている場合じゃなかった。

 

小走りで横断歩道を渡り、ホテルの玄関へ滑り込むように入った。

そこには、再び行く手を阻むかのようにのんびりと動くエスカレーターが待っていた。

今度はお前か...。

 

(ああ、やっぱり駆け上がりたい!)その衝動を必死で堪え、後ろの母を振り返ると、母は僕を見て大きく頷いた。

 

それは...塁に出た選手に送る、監督の熱い視線そのものだった。

(走れ!ですね)(行こう!!)

僕は迷うことなく、エスカレーターを駆け上った。

そして、グリコの人のポーズ。

ああ~快感!!

 

幼稚園以来の夢が叶った瞬間だった。

それから、ゲッ!一足遅れて監督、いや母も。

母の手の中、キラリと『大人げナイフ』が光っていた。

 

弾む息を整えながら、フロントに近づく。

あっ!いらっしゃった!

後光の人は、宿泊客に笑顔でカードキーを手渡しているところだった。

 僕の熱い視線に気づいたかように顔を上げると、ゆっくりと僕らを見た。

 

(一時はあなたを疑ってしまいました。おかげさまで印鑑を手に入れ...)

詫びようと息を吸い込んだその時、後光の人は隣に立っている人と顔を見合わせ頷き、フロントから飛び出して僕らに駆け寄って来たのだった。

つづく

 

次回予告

後光の人との再会を喜ぶ僕ら。

ようやく落ち着いたホテルの部屋で、母はまた...。

 

~お知らせ~

やっぱり、最終話じゃありませんでした。計画性がなくってすみません。

でも、今月中にはちゃんと終わらせます。ラストスパート、頑張ります!

最後までお付き合いください。よろしくお願いします。

 

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