仙台を後にし、新幹線は再び走り出した。
母は窓の外を、少し口を尖らせながら眺めていた。
怒ったような顔は、母が真剣に考えている時の特徴だ。
文庫本に指を挟んだまま、僕も、仙台郊外の街並みを眺めた。
盛岡を出発して、約1時間。
道路の端に押し付けられた雪は、乾いた埃や泥をかぶり、コーヒー味のかき氷のようになってところどころに残るくらいだった。
「うーん、忘れたものは仕方がないよね。買おう!」
母は、僕の方を振り向き言った。
(買う?ああ、その手があったか!)と考え、黙っていると
「うん、買おう。やっぱり拇印じゃダメだろうし...」
と母は、自分を納得させるように言った。
拇印=ボイン ふぇへへっ...。いかんいかん!僕は妄想にパンチを浴びせ
「うん、そうだよね。買えばいいんだよね。東京だもん。どこでも売ってるって。すぐ買えるよ」
と大真面目に答えた。
僕の答えに母はこっくりと、満足したように頷いた。
『三船』の印鑑は、普段僕らが良く利用するスーパーの中にある百円ショップでも売っている。
しかし、「すぐ買えるよ」と軽く言ったものの、その言葉を発したのと引き換えるように、
東京駅で百円ショップなんてあったっけ?まあ確実なところではんこやさん。
でもどこに?それに『三船』って全国区の苗字?と、止めどもなく不安が溢れ出してきた。
その思いは母も同じだったらしく、僕らは『不安の大蛇』にぐるぐると、とぐろを巻かれ締め付けられているような息苦しさを感じた。
「はぁ~、はぁ~」
僕は息苦しさを少し吐き出し、また窓の外に視線を移した。
窓側の席に座っている『ホタテおじさんお二人目』は、重く淀んだ僕らの空気を感じたのか、それとも揺れる車内で書類を読み疲れたのか、盛んに首を回し始めた。
突然、母の携帯のメール着信音が聞こえた。
慌てて携帯を開いた母は、おじさんの首の体操を止めるような、またしても大きな声で
「なによっ!」
と言い、今度は本当の怒った顔で、僕に携帯の画面を突き出し見せた。 つづく
次回予告
隣のおじさん驚いています。
少しは場所をわきまえてよね、お母さん。
メールは誰から?なにか問題解決に繋がるのだろうか。
読んで下さってありがとうございます。
次回もお楽しみに!









